イーストウッドのフィルモグラフィーの中でもあまり注目されない作品だと思うが個人的には好きな1本。
美大教授にして美術品鑑定家、そして高名な登山家であるジョナサン・ヘムロックのもう一つの顔は政府当局の報復暗殺を専門に請け負う殺し屋である。暗殺業からの引退を決めた彼の最後の仕事はアイガー北壁登山隊グループの中にいるメンバーのうち1人を殺すこと。ただし誰がターゲットかは分からない…。
荒唐無稽なストーリーだが原作がそうなのだから仕方がない(笑)。危険な登山の最中に無理に暗殺などやらなくてもと思うし、雑で穴だらけな筋立てだが主人公ジョナサンの特異な人格(良心や罪悪感というものを一切持たない)の内面描写やブラックユーモア、迫真の登山描写で原作は結構面白い。
映画は原作の表面だけをそのままなぞっている上、イーストウッド自身の演出も平板で冴えないため散漫な印象に。世評が芳しくないのも無理はない。
批判ばかり書いてるが本作の最大の魅力は圧倒的迫力の登山シーンとジョン・ウイリアムズ大先生のサウンドトラック。
実際にアイガーに登って撮った登山の描写はもの凄い。見てるだけで目が回る。チャチなセット撮影が多かった「クリフハンガー」とは比べ物にならない本物の緊張感がある。撮影班の苦労が偲ばれる。
ウイリアムズのサントラも実にスリリング。ジャズの要素が入っているのはイーストウッドの要請かな?後にスピルバーグ&ルーカスとつるむようになってからは俗受けエンタメ路線に行ってしまったのは残念無念。
出演陣では主人公の親友・登山仲間役のジョージ・ケネディが良い味出している。あのいかついツラが出るだけで画面が締まる。
宿敵を演じているジャック・キャシディは刑事コロンボで犯人役を3度もやっているので顔を御存じの方も多いと思う。テレビドラマが主戦場で映画出演はあまり多くない。本作出演の翌年に火事で早逝したとの事。
嫌味な工作員役のグレゴリー・ウォルコットはイーストウッド映画の常連。エド・ウッドの「プラン9・フロム・アウタースペース」の主演俳優として有名(笑)。今年老衰で亡くなったそうだ。
DVDは画質が酷かったが2015年6月にリリースされたBDは涙モノの高画質だった。音声は相変わらずモノラルのみだがテレビ放送時の吹替が収録されているのは素晴らしい。イーストウッドの吹替はもちろん山田康雄。ケネディの声は若山弦蔵。ケネディの吹替は若山弦蔵と小林清志の印象が強い。自分は若山派かな。吹替の尺は90分版より長いようだが延長版があったのだろうか?イーストウッドとハイディ・ブルールがホテルの階段で話すシーンは自分が持っている録画にはなかった。
監督 クリント・イーストウッド
クリント・イーストウッド(山田康雄)/ジョージ・ケネディ(若山弦蔵)/ジャック・キャシディ(小林恭治)/グレゴリー・ウォルコット(富田耕生)
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