「カサンドラ・クロス」 汚染列車がひた走る

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病原菌パニック・パンデミックジャンルの元祖的作品。1976年公開。ジョージ・A・ロメロの「ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖」の方が3年公開が早い。本作はザ・クレイジーズの影響を受けたのだろうか?白い防護服・防毒マスクの兵士たちの姿はソックリだけど。いずれにせよあの白服連中は非常に不気味でインパクトがあった。

日本ではパニック大作として公開されたが実際に見てみると意外にこじんまりした印象。それほどの大予算映画ではなかったようだ。イタリア・イギリス・西ドイツ合作の欧州映画でハリウッド作品とは違う暗く淀んだ雰囲気が魅力。ジェリー・ゴルドスミス大先生謹製の物悲しいサントラも陰鬱さに拍車をかけて効果的。
セット撮影の大半はイタリアのチネチッタで行われたそうな。軍の作戦司令室や防疫センターの作りは微妙で人が全然居ないのも不自然。

突っ込みどころ満載の荒っぽい筋立てだがスリリングな演出、味のある出演陣、寒々しい映像・撮影でサスペンスが最後まで持続し楽しめる。
本作が忘れられない作品になったのは後味最悪なクライマックスとラストの強烈さにある。主人公は後部車両を救うため前部車両を見捨てる決断をする。この展開は大変苦い。個人的には全滅バッドエンドよりキツイ。列車崩落シーンはおもちゃ丸出しで興ざめだが女子供老人区別なく乗客が惨死するシーンは今見ても大変ショッキング。最近の映画では直接描写はしないよな。
助かった乗客たちの他に列車を制圧していた軍人連中が多数生き延びているのもリアルかつ皮肉。敵どもは勧善懲悪なら全滅がセオリーだけど。
列車の乗客たちを兵もろとも死に追いやった指揮官及び作戦顧問の女医さんも「処分」されることを暗示させるラストも不気味。

出演陣は米国勢と欧州勢の混合メンバーで良い感じ。

リチャード・ハリスは知的ムードが魅力。精神科医のくせに銃の扱いがやけに上手い。ピーター・オトゥールが出演を断ったので役が回ってきたそうだ。
ハリスの元奥さん役のソフィア・ローレンも茶目っ気があってグー。本作のプロデューサー、カルロ・ポンティの奥さんでもある。
アメリカ軍指揮官にバート・ランカスター。「合衆国最後の日」では正反対の役を演じてたな。
インパクトのあるルックスのエヴァ・ガードナー。ブラックユーモアの効いた台詞が良し。兵士に向かって「この銃、うちの旦那の会社が作ってるのよ」というシーンがお気に入り。
マーティン・シーンはパニック映画お約束の「一芸に秀でてる」キャラでヤク中の登山家。この頃は若いなー。小悪党だが根はいいやつ。好きな台詞は「君のテニスシューズを貸せ!」
「サスペリア」「インフェルノ」「顔のない眼」などが有名な怖い顔のオバさんアリダ・ヴァリは普通の御婦人役。本作では魔女の呪いで敵を殺したりはしない。残念。
アメリカ演技界の大御所リー・ストラスバーグが出演しているのが嬉しい。舞台及び俳優養成が本業で映画には殆ど出ない人だったからな。さすがの名演技。

「ハリスの吹替=日下武史」の印象が強いのは本作のTV版吹替の影響が大きい。数作でハリスの声を当てているがフィクスというほど定着していたわけではないしね。知的な声が格好良くてピッタリだった。日下氏がアンソニー・ホプキンスの声を当てた「ハンニバル」のテレビ吹替版の録画を消してしまったのは生涯の痛恨事。「ジャガーノート」では森川公也、「ワイルド・ギース」では前田昌明、「オルカ」では宮部昭夫がそれぞれハリスを好演している。自分にとってはベスト・オブ・ハリスボイス・アクターが4人いるワケ。
ランカスターは何故か青木義朗が演じている。他にシーンの声を当てた青野武、ストラスバーグの宮部幸平、車掌役の雨森雅司が特に良い。カットの少ない全長版吹替がblu-rayに収録されるそうだ。

テレビ吹替版の他に本作はLD版吹替が存在する。こちらはノーカット版。配役も中々のもの。
ハリスは家弓家正。日下ハリスはアクテイブな激情家風だったが家弓ハリスはダンディな紳士イメージ。
ランカスターはフィクスの久松保夫。
イングリッド・チューリン役の谷育子の声はTV版で同役を演じた奈良岡朋子によく似ている。
ストラスバーグは槐柳二、シーンは安原義人が担当。


監督 ジョルジュ・パン・コスマトス

リチャード・ハリス(日下武史(TV版):家弓家正(LD版))/ソフィア・ローレン(此島愛子)/バート・ランカスター(青木義朗:久松保夫)

吹替収録blu-ray



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