自分は新作映画はほとんど見ないのだが本作は面白いと評判の上「マッドマックス2」はお気入りの作品という事もあり遅まきながら鑑賞。
…すげええええええ面白い!こんなキテレツな映画見たこと無い。
2のクライマックスのカーチェイスが2時間続く内容と聞いていたがまさにその通り。作中の9割部分がアクションという斬新な構成。
CG製作の一般化により現在はどんな映像を見ても驚かなくなっているが、本作のアクションには圧倒された。CGだとわかっていても。
しかしblu-ray映像特典のメイキングを見てみると…
「本当に車がクラッシュしている!」
「本当に爆発してる!」
「本当に火を吹いてるよ!」
絶句。CGは極力使わない方針で製作されたそうな。キャストとスタッフの正気を疑う撮影の連続で死人が出なかったのが不思議でしょうがない。監督はシリーズ全てを手がけているジョージ・ミラー。70歳のお歳ながら全然衰えてない演出手腕に驚く。本作は映画史上最強のカーアクション作品だと思う。
内容は2のリメイクっぽい。3作目の「サンダードーム」のテイストも若干入っているが。2が低予算ならではの手作り感とリアリティにあふれていたのに対し、本作は大予算と物量とクレイジーな制作体制がフルスロットルで爆走したインパクト重視の作品になっている。
作品序盤の30分はナレーションの説明無しでも世界観がわかるよう作られている。水などの資源を抑え狂信的教義で手下を掌握しているイモータン・ジョーの独裁体制から逃れ、ジョーの妻たちとともに生まれ故郷の楽園に帰ろうとする女戦士フュリオサの逃避行にマックスが加担するのがおおまかな筋立て。
ジョーを演じるのは1で悪役トゥーカッターを演じたヒュー・キース・バーン。監督同様結構な歳の爺さんなのにようやるわ。自分の女を取り返すべくボス自ら出撃。本作の敵連中はならず者というより狂信者集団。教祖のために喜んで戦って死ぬ。やたらとキャラが立っていて面白い。他にフリークスや欲の亡者、兵器狂などバラエティ豊か。
マックスは冒頭でとっ捕まり拘束され序盤は全然活躍しない。台詞も殆ど無い。
「何もかも奪いやがって。その車は俺のだぞ」
という台詞が唯一印象に残る。前知識無しの初見の観客は主役が誰だかわからなくて混乱しそう。
マックスが拘束を解きフュリオサのウォータンクを乗取ってから俄然お話のエンジンが加速していく。
「谷」での戦いは大興奮。音楽が良い。車を運転しながら銃をぶっ放しまくるマックスが最高。2では銃弾が非常に貴重な物資であまり撃てなかったんだけどね。エンジン火災を力技で消すシーンが格好良い。排気口の蓋が開閉するのが芸が細かくてグッド。
ウォータンクに乗っている「妻たち」5人(内2人が妊婦)が今にもヤラれそうでハラハラする。
ジョーの手下のヒヤッハー部隊の一人ニュークスは戦う気ギンギンでテンション高い。担当声優は中村悠一。こういう役は千葉繁あたりがやるべきで何故ハンサム声の中村氏が演じてるのか不思議だがお話が進むと理由がわかる。
ジョーのために華々しく戦死するはずが大失態をやらかし見捨てられさめざめと泣いているところを「妻たち」の1人ケイパブルの優しさに触れ人間性を取り戻していくという展開で大変魅力的なキャラだった。車を直したり運転したりと大活躍する。
夜間行程はジョーたちを引き離したものの泥濘地帯にハマり悪戦苦闘。ニュークスの機転で危機を切り抜ける。
キャタピラ装甲車を持つ「武器将軍」の追撃にマックスは長距離狙撃で足止めを試みるが上手く当たらない。最後の一発をフュリオサに託し、フュリオサがマックスの肩を狙撃台にして見事に命中させる。初めて二人の信頼関係が結ばれた良いシーンだ。
「武器将軍」の声は千葉繁。ザコの声は全部この人でも良かったな。
夜間場面の青みがかった映像が美しい。
ようやく辿り着いた「約束の地」はすでに滅んだ後で年老いた老婆たちが数人住み着いているだけだった。フュリオサは絶望。
「希望は持たないほうがいい。心が壊れたら残るのは狂気だけだ」というマックスの言葉が重い。
老婆が植物の種をダグに見せる場面は心打たれる。北斗の拳にも同じようなエピソードがあったな。
ニュークスがケイパブルと仲良く寄り添う姿は微笑ましい。全編アクションの本作で静かなシークエンスはここだけだ。
あてのないまま前進しようとするフュリオサ達をマックスは引き止める。マックスはジョーの砦に引き返すことを提案、追手の中央を突破してもぬけの殻状態の砦を制圧する無謀な作戦だがフュリオサと仲間たちは快諾。
往復してスタートに戻るんかい。小学校の遠足か。
さあ映画史上類を見ない最凶壮絶カーバトルの始まりです。
開幕はニトロを口移しにエンジンへ吹き込むスピード競走。こんな馬鹿な絵面をよく思いつくな。
サーカスまがいのポール部隊による爆撃は開いた口がふさがらない。
終盤戦のマックスはジャッキー・チェンの如き車上バトルを展開。
宙吊り状態になったマックスをニュークスが蹴飛ばして敵の車に押しこむ場面は拍手喝采。ナイスアシスト。
ジョーはフュリオサにとどめを刺される。死に様はあっけないがラスボスがあっさりヤラれちまうのはこのシリーズの伝統だ。
種モミ婆さんは死んじまったが死に顔は安らかであった。涙。
ニュークスは仲間のために特攻をかます。彼には生き延びて欲しかった。合掌。
刺されて瀕死の状態のフュリオサにマックスは初めて自分の名前を明かす。感動の名シーン。
砦の新しい主になったフュリオサを残してマックスは一人去っていく。
そのまま暮らせばいいのに。ヒーローは去らねばならんのか。去り際の二人の表情が素敵。
2の伝説的ラストには及ばないがやはり感動なり。
評判通り本作の主役はマックスではなくてフュリオサだな。圧倒的存在感でマックスを食っちまってる。眼力が凄い。
南アフリカの至宝シャーリーズ・セロンが大熱演。
トム・ハーディの新生マックスは意外に地味な印象。2のメル・ギブソンのようなギラついた殺気や狂気は感じられなかった。ヤクザ映画における高倉健のイメージに近い。
吹替版を鑑賞したがマックスの声は世間で叩かれているほど酷いとは思わなかった。オープニングのナレーションは厳しいが他は悪くなかったと思う。「装甲騎兵ボトムズ」のキリコ(郷田ほづみ)の声に聞こえなくもない。宮崎アニメやゴーリキーの「プロメテウス」よりずっとマシ。
竹内力のジョーの吹替も違和感なし。ボイスチェンジャーを使ったフガフガ声は2の悪役ヒューマンガスに似ている。
セロンの声をアテた本田貴子はイメージぴったり。女戦士の声が似合うね。「クロスアンジュ」でも同じような役をやってたな。
中村悠一、千葉繁、たかはし智秋、田村睦心が出演しているのが嬉しい。
新作映画だけあって画質音質は文句なし。続編はあるのかな。
監督ジョージ・ミラー
トム・ハーディ(AKIRA (EXILE)/シャーリーズ・セロン(本田貴子)/ ニコラス・ホルト(中村悠一)
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