「ザ・フォッグ (1980年版)」 ブルーレイは吹替3種類収録の豪華仕様

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ジョン・カーペンター監督キャリア初期のホラー映画。
町民の計略で船ごと海に沈められた6人の男たちが100年後亡霊となって港町を襲うという筋立ては西洋怪談の趣き。
「八つ墓村」みたいだな。
亡霊メンバーの人数に合わせて殺す人数も6人、ノックした相手がドアを開けないと建物に入れないなど妙に律儀。
町民皆殺しぐらいの勢いがほしいですね。犠牲者は亡霊一味とは無関係な一般人ばかりだが、アメリカで出版されたノベライズ版は船を沈めた黒幕の末裔たちを追いかけ回す展開だったらしい。

荒削りな作りだった「要塞警察」や「ハロウィン」と比べると商業映画としてカッチリ作られており、カーペンターの演出手腕の向上が感じられる。
「要塞警察」はクライマックスがしょぼすぎ、「ハロウィン」は前半の日常パートが退屈すぎたもんね。
群像劇と黒い影が徐々に町を覆っていく展開が滑らかに進む。
カーペンター監督謹製のサウンドトラックも良品。物悲しいピアノの響きが良い。
予算は100万ドル。北米だけで2000万ドルを稼ぐヒット作となった。

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亡霊の皆さん。
ホームレスみたいなオッサンたちが立ってるだけで「絵」になるのは監督のセンスの賜物。
「ハロウィン」のマイケル・マイヤーズ同様ですな。
中心にいるブレイク船長を演じているのは本作の特集効果を担当している若き天才ロブ・ボッティン。
「ハウリング」「遊星からの物体X」「ロボコップ」などの仕事で伝説的存在に。
背後の幽霊の中に後に映画監督になるトミー・リー・ウォレスがいる。

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教会襲撃と同時に灯台を攻撃する亡霊2人。
教会に6人居るので数が合わない。ドッペルゲンガーか。


国内版ブルーレイは2017年12月に発売された。
画質は発色は良いが眠い画調で精細感に欠ける。
北米シャウトファクトリー版BD収録の5.1サウンドとスタッフコメンタリーがカットされてるのも残念。
スタジオカナルのクレジットあり。相変わらず旺盛な買い漁り振りに呆れてしまう。
本製品はソフト版、テレ朝版、テレ東版3種類の日本語吹替が収録されているのが最大のウリ。
「吹替の帝王」や「吹替えの力」レーベルに負けないゴーカ仕様でござるぞ。
それがしも製品化に際し音源提供で協力させて頂いている。
吹替の概要は以下の通り


■ソフト版(LD・VHS)

二ヶ国語LD向けに制作されたバージョン(二ヶ国語LDの解説はこちら)
後にVHS版も発売された。
ソフト版のみオープニングのポーの引用文の読み上げあり(声は千葉耕市)


■テレビ東京版

初回放送は1982年の「木曜洋画劇場」
自分の知る限り80年代なかばのリピート放送が最後でキー局では以後一度も放送されてないはず。
音源が早い時期にジャンクされてしまったと思われる。
本作のランタイムは90分弱で2時間枠の映画番組では尺足らずなので冒頭に局製作の本編ダイジェストが入っている。
ダイジェスト編のBGMに使われているのはジャン・ミッシェル・ジャールの「軌跡パート4」(リンク先の4曲目)
本作のイメージにピッタリ。選曲した人センスがあるなぁ。
テレ東版は10秒程度吹替のカットがあるのが謎。わざわざダイジェストを入れて尺稼ぎしてるのに。
カット部分はヒッチハイク、ラジオ放送、日記の場所を尋ねるシーンなど。


■テレビ朝日版

初回放送は1991年の「日曜洋画劇場」
冒頭に本編ダイジェストがあるのはテレ東版同様。
90年代以降はテレ東など他局でも本作の吹替はテレ朝版が放送されるようになった。



俳優・声優に関してつらつらと。

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○エイドリアン・バーボー(スティーヴィー・ウェイン役)
 (此島愛子(ソフト版):小沢寿美恵(テレ東版):吉田理保子(テレ朝版 以下同順))

灯台ラジオのDJスティーヴィー役は当時カーペンター監督の奥さんだったエイドリアン・バーボー。
「ニューヨーク1997」でもヒロインを演じた。
御年70を超えた現在も女優・声優として活躍中。

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○トム・アトキンス (ニック・キャッスル役)
 (石田太郎(ソフト版):石田太郎(テレ東版):玄田哲章(テレ朝版))

ニック・キャッスルの役名は「ハロウィン」でマイケルを演じた同名の俳優(兼監督・脚本家)から。
トム・アトキンスはカーペンター関連作品では「ニューヨーク1997」「ハロウィンⅢ」に出演している。
「クリープショー」や「リーサル・ウェポン」への出演で好事家にはおなじみの顔ですな。
3種類の吹替のうち2種を石田太郎が担当。

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○ジェイミー・リー・カーティス (エリザベス・ソリー役)
 (松金よね子(ソフト版):?(テレ東版):土井美加(テレ朝版))

ジェイミー・リー・カーティスは「ハロウィン」に続き本作でもヒロイン的役どころで出演。
ホラー映画の女王だった彼女も今や大女優。
キャメロン監督の映画にシュワの奥さん役で出演したり。

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○ジャネット・リー (キャシー・ウィリアムズ役)
 (稲葉まつ子(ソフト版):?(テレ東版):寺島信子(テレ朝版))

ジェイミー・リーの母でトニー・カーティスの元奥さん。
本作では娘と親子共演。「サイコ」のマリオン役で有名ですね。
個人的には本作と「刑事コロンボ 忘れられたスター」と「新トワイライトゾーン」の葬式マニアの御婦人役の印象が強い。

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○ハル・ホルブルック(マローン神父役)
 (小林勝彦(ソフト版):大木民夫(テレ東版):城達也(テレ朝版))

マローン神父はややアル中気味という設定で西欧のフィクション作品における聖職者に同様の描写が度々見られる。
ストレスから酒に走りやすいのかね。
演じているのはスティーブン・キング曰く「マーク・トゥエインに激似な男」ハル・ホルブルック。
アタシの大好きな俳優さん。
「ダーティハリー2」や「カプリコン1」の悪役が代表作かな。
ドラマミニシリーズ「セレブリティ」の検事役が個人的フェイバリット。
「クリープショー」にエイドリアン・バーボーと夫婦役で共演。
演じている声優さんも声に威厳のある名優揃いだが役作りの違いが面白い。
小林氏は穏やかで上品、大木氏は怯え、城氏は冷徹な超然さが感じられる。

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○チャールズ・サイファーズ (ダン・オバノン役)
 (池田勝(ソフト版):青野武(テレ東版):池田勝(テレ朝版))

役名は「バタリアン」の監督や「エイリアン」の脚本で有名なあの御仁から。
サイファーズもカーペンター監督の常連俳優で「ハロウィン」「ハロウィン2」の保安官役でおなじみ。

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○ダーウィン・ジョストン (ファイブス医師役)
 (?(ソフト版):曽我部和恭(テレ東版):仲木隆司(テレ朝版))

水死体の検死を担当したお医者さん。
ジョストンは「要塞警察」のナポレオン・ウィルソンがハマリ役だった。カッコ良かったよねぇ。
他に「イレイザー・ヘッド」などに出演したが、その後はあまり役に恵まれず白血病により60歳で亡くなった。
「超音速攻撃ヘリ・エアーウルフ」に空港職員役で出演していて驚いた記憶あり。ホントーにチョイ役だったので。
ナポレオンさん何やってるんですか。
カーペンターが監督する予定だった「炎の少女チャーリー」では政府の殺し屋レインバード役に内定していたが、監督交代によりジョージ・C・スコットに変更された。
彼のレインバード見たかったねぇ。

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○ジョン・カーペンター (ベネット役・ノンクレジット)
 (?(ソフト版):曽我部和恭(テレ東版):?(テレ朝版))

教会の雑役夫。監督みずから御出演。
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